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2022/10/15
インボイス制度とは?内容や目的を知って対応を検討しよう
2023年10月から始まるインボイス制度(適格請求書保存方式)に対応するには、登録や準備が必要です。国税庁によると、対象となる課税事業者のうち登録済みの事業者は、2022年9月末時点で38%と発表されました。開始まであと1年ですが、「よくわからない」「まだ1年もあるし、まだ大丈夫」と考える経営者や経理担当者の方は多いのではないでしょうか。この記事では、インボイス制度の概要についてわかりやすく解説します。ぜひこの記事を読んで理解を深め、検討を進めていきましょう。
インボイス制度とは?
インボイス制度は消費税に関する制度です。請求書などへの消費税に関する記載事項を規定することで、税率を区別して正確な税額を把握しやすくします。
まずは、前提となる消費税の納付の仕組みから紐解いていきましょう。
1.消費税の仕組み
例えば、商品を売って得意先から入金があった場合は、そのうちに消費税が含まれています。この消費税は一旦預かっている状態であり、最終的には納付すべきものです。逆に、商品を仕入れるときは仕入先に支払いをしますが、このうちにも消費税が含まれています。納付すべき消費税を仕入先に一旦預けている状態です。
これらを差し引きして、納付しきれていない額は納付する必要があります。つまり、一旦預かっている消費税から仕入先に支払った消費税を控除した金額を、最終的に税務署に納付することになります。
2.課税事業者と免税事業者
少し正確ではありませんが、わかりやすくに言うと、消費税の納税義務は、以下の場合に課されます。
消費税の納税義務がある事業者のことを「課税事業者」といいます。
・基準期間の課税売上高が1000万円を超える
・上記に当てはまらない場合で、前年度の開始から6か月間の課税売上高が1000万円を超える
これらに当てはまらない場合は「免税事業者」となることができ、消費税の納付が免除されます。つまり、一旦預かった消費税は納付の必要がなく、自社のものとすることができます。この税金のことを「益税」と呼びます。
3.結局インボイス制度とは?
「1.消費税の仕組み」で、売上等で預かった消費税から仕入等で支払った消費税を差し引いて税務署に納付すると説明しました。仕入等で支払った消費税を差し引くためは、現在は取引先から受領した請求書等を保存しておかなければなりませんが、インボイス制度の導入後はインボイス(適格請求書)の保存が必要となります。
インボイスとは、定められた事項が記載された請求書等のことをいいます。そして、このインボイスは税務署に登録された事業者しか発行することができないため、登録を申請する手続きが必要になります。
インボイス制度の目的とは?
インボイス制度開始の背景には、様々な課題があります。その一つが、2019年に導入された軽減税率制度です。この制度の開始によって、消費税が8%と10%の商品が混在する状態となり、これらを明確に区別する必要が出てきました。消費税の納付のために仕入税額を控除する際には、税率や税額は重要です。インボイスによって、これらが簡単に把握できるようになります。
また、上でも触れた「益税」の存在もあります。免税事業者にとっては得となりますが、国としては本来納付される税金を取りこぼしている形です。元々3%であった消費税率は今や8%または10%と高くなっており、益税の金額も大きくなっています。国の財政状況は厳しいため、少しでも税収を確保したいという狙いは大きいでしょう。
自社はインボイス制度への対応が必要か?
概要を理解したところで、「自社には関係があるの?」という疑問が浮かぶ方が多いのではないでしょうか。具体的に何をするのかを見ていきましょう。
そもそも「インボイス」とは、売り手が買い手に対して、商品の適用税率や税額を正確に伝えるためのものです。「適格請求書」とも呼ばれるため、請求書に関するイメージがありますが、条件を満たせばそれ以外のものでもよく、手書きのものでも良いとされています。
インボイスを発行するには、まずは登録申請を行いましょう。申請が受理されると課税事業者となり、登録番号が割り当てられます。発行するインボイスには以下の記載事項を満たすことが必要です。
・発行元(売り手)の名称・氏名と登録番号
・交付相手(買い手)の名称・氏名
・取引年月日
・取引内容、軽減税率の対象かどうか
・適用税率ごとに区分して合計した対価の額
・税率ごとに区分した消費税額
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登録しなければならないのか?
課税事業者であっても免税事業者であっても、インボイスを発行するには登録が必要です。登録するかどうかはあくまで任意とされています。しかし、仕入税額を売上税額から控除するには、登録事業者の発行したインボイスが必要です。例えばA社が登録を行わない場合、取引先であるB社はA社から仕入れた分の消費税額の控除ができません。B社からすると税負担が増えてしまうため、A社にインボイスの登録事業者となってほしいところです。
仕入の消費税を控除できない仕入先とは、今後取引を行わないと判断する会社もあるでしょう。こうした点から、インボイス制度への登録は取引先との兼ね合いも考慮する必要があります。
一方で、登録した場合は課税事業者となるため、消費税の納付が必要となります。これまで免税事業者だった場合は、税負担や経理の手間・コストが増えるでしょう。対外的な要素だけでなく、社内における変化も考慮に入れて検討することが大切です。
取引先が免税事業者や一般の消費者のみである場合は、仕入税額控除をする必要のない相手であるため、必ずしも登録の必要はありません。内外に及ぼす影響を十分に考慮したうえで、登録するかどうかを決めましょう。
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経過措置も考慮に入れて
インボイス制度には、急激な変化を緩和する観点から、一定期間の経過措置が定められています。これは、仕入先が免税事業者で、登録事業者になっていない場合に、その仕入先からの仕入税額に対して、開始後3年間は80%、さらに3年間は50%控除できるというものです。経過措置終了後の2029年10月には、免税事業者からの仕入税額は控除できなくなります。
2023年10月の時点では免税事業者のままで、経過措置期間中に状況を見ながら検討することも一つの方法です。場合によっては、免税事業者から課税事業者に転換する必要も出てくるでしょう。
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簡易課税制度についても知っておこう
これまで紹介した消費税納税の方法は、実際の消費税の金額を算定するもので「原則課税」と呼ばれます。一方で、簡易的に消費税を算定する方法として「簡易課税制度」があります。
簡易課税制度とは、売上税額に「みなし仕入率」をかけることで仕入税額を計算し、その額を控除できる制度です。みなし仕入率は事業区分によって決まっており、事業者によっては節税になることもあります。また、処理が簡単であることから、課税事業者の約4割が選択している制度です。適用を受けるには、課税売上高が5000万円以下であることと、届出が必要です。
請求先が簡易課税制度を利用している場合は、みなし仕入率を用いて仕入税額の控除ができるため、インボイスの発行の有無は関係ありません。こうした事情もあるため、取引先の状況を見ながらインボイス制度への登録を検討したり、自社の簡易課税制度の利用を検討したりする必要があります。
適格請求書発行事業者の登録申請
国税庁への適格請求書発行事業者の登録申請は、書面の提出か電子申請のいずれかで行うことができます。書面は国税庁のホームページからダウンロードでき、電子申請はe-Taxで行えます。個人事業主が書面で提出する場合は、本人確認書類の写しが必要です。
申請自体は難しいことではありません。しかし、登録をするかどうかの検討作業や、登録後の処理やコストへの対応などが必要です。登録することで何が変わるのかを把握し、対策のための仕組みづくりをしっかりと行いましょう。
まとめ
インボイス制度は、今後の取引や消費税の納税に大きな影響を与えるもので、すべての事業者に関係のあるものです。内容を正確に理解し、早めの対策を講じていく必要があります。取引先の意向や状況が影響することもあるため、必要に応じてヒアリングを行うことも大切です。
また、インボイス制度については各業界から賛否の声があります。開始まで期間があるため、最新の情報をチェックしながら、自社に合った対応をしていきましょう。